「町田の家」のお施主様から16年間お住まいになった感想をお寄せいただきました。
施主 山田啓史様 (福祉施設勤務)
「「町田の家」は、竣工から16年が経過し、床や天井、柱や梁が美しい飴色に変化し、程良い風合いを見せています。
この家の壁は、居室、台所からトイレ、風呂場に至るまで、全てが土壁ですが、壁の色の美しさ、そして凛とした空気感が居住者の心を癒してくれます。
また、土壁は家の中の湿度を吸収するのみならず、遮音性も非常に優れています。
「町田の家」を人に伝えるとき、私は、よく「この家は一つの彫刻作品」という言い方をしています。大工が時間をかけて丁寧に材を刻みます。工法は、梁をほぞ穴に深く差すという組み方です。梁を継ぐ際の「継ぎ手」も複雑な方法を用います。こうして組み上げられた家は、内部からどの方角を見ても、深い満足感があり、新鮮な驚きがあります。
「家を構成する柱や梁がどのように組まれ、どのように家を支えているかが一目で見て取れる」家は、日本の伝統工法によって建てられる家の特徴です。
「町田の家」は「彫刻作品」であると同時に「芸術作品」であるという実感を、時間が経過するほど深く感じています。
また、伝統工法による家は耐震性に優れています。日本の木造建築が世界から評価される理由に、その美しさと「耐震性」が挙げられます。日本はどこにいても、いつ大きな地震に見舞われるかわかりません。このようなリスクに対する古来の人たちの知恵が「柔構造」という考え方です。木材そのものの「力がかかっても元に戻る」性質と、木材を組み合わせることによって建物全体に「しなやかさ」を持たせ、外から加わる大きな力に対して「たわんで元に戻る」という特性によって抗した、言葉を変えれば、「まともに戦うことを避ける」知恵です。この家の「建築プラン」のもう一つの柱が、この「柔構造」です。
古民家によく見られる手法に、屋根を支える「小屋組み」を天井で隠さずに見せる手法があります。「町田の家」も、二階部分は小屋組みを見せていますので、柱と梁がそのまま見える形になっています。深田棟梁のセンスは、ここでもそのセンスが如何なく発揮されます。丸太(梁)を削った側面が非常にきれいな筋となって端から端まで繋いでいます。夜のライトに照らされると、そのひとつひとつの面が美しく照らされ、反対側の面はグラデーションのある影をつくり、何とも言えない美しい梁になります。このようなところにも深田棟梁の丁寧な仕事ぶりが伺えます。
昔の家は50年前後で建て替えるという発想はなく、数代に渡って住み継ぐのが普通でした。「町田の家」も子々孫々末代に渡って住み継ぐことが出来る家としてプランされ、その役割を担おうとしています。」